「きっといい奴、見つかるって」
「・・・う、ん」
「な、元気だせよ」
「・・・ありがとね、向日」
「別に良いって」
「私、向日みたいな友達持って幸せだよ」
「・・・・・・・俺、も」
どこまで俺はいくじなしなんだろう。
+校内放送でプロポーズしろ+
俺はが好きだ。
でもは俺のこと友達としか思ってない。
そして今。
は跡部に告白して振られてきた。
それを慰めている俺。
この役目が俺でよかったと思うけど、でもこのポジションもなかなかに空しい。
「さーてと!そろそろ帰ろうかな!」
空元気が丸わかりな声で、が叫んだ。
目元の恋の残滓を軽く拭って、カバンを手に取り立ち上がるの目は相変わらず赤かった。
けれど、窓から柔らかく刺す夕日にさらされた横顔は何かすっきりしたような、空洞でも出来たような表情を浮かべていた。
「ほんとにごめんね、向日」
「いいって、別に。今日部活休みだし」
「でも自主練あったんでしょ?」
「俺はそんな練習しなくても強いんだよ!」
「体力無いくせにー」
「うっせー!」
よかった。
が笑っている。
「じゃ、また明日ね」
「おう」
ひらひらと揺れる手が教室の引き戸の奥に消えていった。
ぱたぱたと廊下を歩くの上靴の音がする。
それがだんだんフェードアウトし、俺は深くため息をついた。
「いつまで、やってんだろーなー」
こんなこと。
こんなポジション。
こんなうじうじした気持ちを抱えて。
『悪いねんけど、部室の俺のロッカーから予備のシャツ一枚取ってきてくれへんか』
昼休み。
忍足からそんなメールが届いた。
『アイスおごり、な!』
そう返信して俺は部室に向かった。
忍足のロッカーから真っ白なシャツを取り出す・・・・あ、間違えた、これインナーだ。
適当に畳んでもう一度ごそごそすると、透明のビニールに包まれた、いかにもクリーニング上がりですと言った感じのシャツがでてきた。
それを抱えて俺は部室を出る。
そしてふと気付く。
忍足の奴、どこにいるんだ?
携帯を取り出すと、すでにメールが一件届いていた。
『俺は第二放送室におるからー』
?
何で放送室?
・・・まさか
「おー岳人!お前は救世主や!」
「なーにが救世主だ!お前またこんな所でやらしーことしてたのかよ!」
「やらしーことてなんや。未遂や未遂」
放送室の椅子にふんぞり返った忍足のシャツにはグロスだか口紅だかが数点ついていた。
夏が近づいたこの時期にブレザーを羽織っているわけが無く、この姿で放送室から出られなかったんだろうな。
「・・・お前、彼女と別れたんじゃなかったのかよ」
「・・・・古傷えぐるなや」
がくーっとうなだれる忍足。
だがその胸元には証拠がある。
俺の視線に気付いたのか、忍足が胸元の赤い数点あたりのシャツを引っ張って手を横に振った。
「ちゃうで、ちゃうで。これは先輩にされたん。正直ご無沙汰やし、このまま流されてもええかーと思ったんやけどな」
ふう、と息をついて忍足はくるんと椅子を回した。
「やっぱりなー。なんか好きな人やないとのれへんなーて思て。ほんで途中でお帰り願いました」
「・・・よく承諾したよな。相手の奴」
「うーん。まぁ軽くどつかれたけど、な」
修羅場など数知れずくぐり抜けてきた忍足は軽く笑った。
あははーと笑えるのもそのせいだろう。
でもこいつにそんな誠実な部分がでてきたことに驚いた。
「はい、シャツちょーだいや」
「ほら」
「ありがとーさん。ちょおまっときや。着替えたらアイス買いにいくで」
忍足はばさばさと着替えだした。
成長期なせいか、こいつは最近特に身長が伸びているらしくてうらやましい。
自分の尺度がわからないかのようにあっちこっちに手や肘をぶつけては「あたっ」とか言ってる。
俺も言えるようになりてぇ・・・
・・・・・伸びるんだよ!俺も!もうすぐ!後ちょっとしたら!
「うわーなんか機材の所にめちゃぶつけてしもた・・・潰れてへんよな?」
着替え終わった忍足はネクタイを結びつつ、なんか大量にボタンとかレバーとかついた放送室特有のデスクを眺めている。
「こんなところで馬鹿なことやってた罰だろ。たけーだろーなー」
俺がにやにやしてると、忍足がにやりとした。
なんだ?
「お前も難儀なやっちゃなー。好きな子とそういうこと出来へんからって俺にあたるなや」
「う、うっせーよ!」
「だいたいなー、いつまでも相談相手っていうポジションなんかむなしすぎるわ。男やったらそろそろ強行突破してみぃや」
「っ!・・・・できるかよ、は、俺のこと、そういう風に見てねぇんだから」
口に出して俺はへこんだ。
自分で言ったことにへこむなんて、馬鹿みてぇ。
「そんなんわからんやん。っていうか自分、結婚するならさんがええなーとか言ってたやん。あの勢いはどないしてん」
「うっせーな!確かにけ、結婚とするならあいつが良いけど・・っていうか・・。だー!!もういいんだよ、これで。仕方ねぇし」
「・・・・いわへんつもりか?」
「俺がに好きって言ったって、あいつきっと困るだろうし。この関係が壊れるのも正直怖い」
「・・・ほーか。まぁ、なんかあったらこの忍足様に言いや。アドバイスしたるわ」
ぽんと頭をたたかれた。
なんか年下扱いされているみたいでむかつく。
「・・・とにかく!アイスだ!」
「ほいほい」
立ち上がって放送室を出る。
と、そこには。
が立っていた。
「なっ!!何でここにいんだよ!」
中での会話きかれてたのか?そうなのか?!
「ずっとここで立ってたのか?!」
「・・・ううん、そうじゃないよ。今走ってきたとこ。けど、あの、」
の言葉は歯切れ悪い。
とりあえず聞かれてたわけじゃなさそうだけど、なんか、の様子が変だ。
後ろから出てきた忍足も驚いてる。でも平静を装ってるのはさすがだ。
「おー、さんやん。どしたん」
「えっと、あの、ね」
赤い顔して、はもじもじしている。
なんだ?もしかして「私、やっぱり跡部君こと、もうちょっとがんばってみる!」とかそういうことじゃないだろうな?!
「・・・・・・・あれ」
が俺たちの後ろ、斜め上を指さす。
忍足と二人そろって見上げると、『放送中』のランプがついていた。
「・・・・え?」
なにがなんだかわからなくて突っ立っている俺をおいて、何かに気付いたような忍足が足早に放送室に戻る。
扉を閉めて三秒。
『岳人、聞こえてるんか?』
「・・・・・へ?」
廊下のスピーカーから忍足の低い声が聞こえる。
「なっ!お前なにしてんだ?!」
『・・・聞こえてるっちゅーことは・・・・はぁ』
忍足のため息が聞こえて、ついでぶつっと言うマイクを切ったような音が聞こえた。
・・・・まさか。
扉から出てきた忍足に飛びついて、俺はあいつの肩をがくがくと揺すった。
「ど、どどどどういうことだよ!」
「どうもこうもあらへん。さっきの会話、全部校内放送で全校生徒に丸聞こえや。俺が着替えてた時にどっかのボタンに触ってマイクのスイッチ入ったみたいでな」
俺はさっと血の気が引くのを感じた。
さっきって。
おれ、『が好き』とか普通に言ってなかったか?
「な、え?な・・・!」
「あの、さ向日」
後ろでが俺の名前を呼ぶ。
どうする、どうする俺。
なんて言われるんだろう。
もう友達でもいられないのか?
もしや嫌われた?
ありうる。
友達と思ってた奴がこんな邪な気持ち抱いてたんだ。
ましてや校内放送で丸聞こえなんて、ははずかしかったんだろう。
絶交宣言されるのかな、俺。
そんなの嫌だ。
友達でいいから、と一緒にいたい。
「わ、悪い!!間違えたんだ!」
「え?」
「って・・・あれだよ!そう!近所の犬なんだよ!ダックスフンド!」
「・・・」
「ほんと、悪いな!今から戻ってちゃんとマイクで言い直しとくから!弁解しとくから!ほんとごめんな!」
言い捨てて、俺は放送室の扉を引く。
が、くい、と後ろからシャツを引っ張られた。
見るとが俯いて俺のシャツを握っていた。
そして小さな声で呟くように言う。
「・・・・勘違いだったら仕方ないけど、さ」
「?」
「失恋した後で、こんなこと言うなんて、尻軽って思うかもしれないけどさ」
「??」
「ちょっと、嬉しかったんだけど」
どう責任取ってくれるのよ、と上目遣いでが俺をにらむ。
いつのまにか忍足は消えていた。
あいつすっげーKY(空気読める)な奴だ。
・・・これは、あれだよな。
抱きしめたりとか、していいよな。
旧館だし、人気ねぇし、いいよな。
っつーかもう我慢できねぇ!
「大好きだ!」
[END]
氷帝第六弾はがっくんですー。
プロポーズがうまいことはいらんかった…orz
ガックンは好きです。ぱっつん。
御題はこちらでお借りしました↓
過酸化少年
けい
08,08,09 |