「はじめまして。アレン・ウォーカーです」
にっこりと可愛らしく笑って手を差し出した少年。
嗚呼
どうしよう
左の胸が痛くて仕方ない。
9.恋を教えてくれた、あなた
「どうもありませんよ」
「・・本当ですか?」
「えぇ、心臓の音も綺麗ですしね。問題ありません」
「・・そうですか」
ありがとうございました、と言ってはシャツの前ボタンを閉めていく。
席を立ちドアノブに手をかけたとき、医療班の人の呟きみたいなものが聞こえた。
「精神的なもの・・かな?」
「え?」
振り返ると、医療班の人は自分の不確かな意見に興味を向けられたことにあせる。
「いや、心音は問題ないから・・精神的に、何かあるんじゃないかって思ってね」
「どうすればいいんですか?」
「その精神的なものの原因が分からないとどうしようもないよ」
肩をすくめるその人。
お手上げとでも言いたげだった。
「・・失礼します」
軽く頭を下げ、は医療室を出た。
(心臓はどうもない・・か)
医療の最先端の、さらにその先を行く黒の教団の医療班の人が大事無いと言うからには、本当に大丈夫なのだろう。
でも
「あ、さん!」
頭の上に丸い飛行物体を乗せた少年が一人、手に何かを持ってこちらに走ってくる。
白い綺麗な髪で遠目でも誰だかすぐにわかった。
あ
やばい
彼は
「・・・ウォーカー君」
「アレンでいいですって!もう、はじめの一回こっきりしか呼んでくれないじゃないですか!」
「ご・・ごめん」
うつむいて言うとアレンは苦笑しながら明るく言った。
「別になんとよばれてもいいんですけどね。あ、もしかしてファーストネームで呼びあうの、嫌いです?だったら僕も」
「わ、私はいいの!うん」
何故だかとっさにはそう言っていた。
「そうですか」
そしてにっこりとアレンは笑った。
い、いたい
左胸が
血液の循環が激しくなったようで
動悸が激しくなる
顔にまで血が上り始めた。
あぁ私やばいかもしれない。
「あ、これ、コムイさんからの資料です」
手に持っていた紙をはい、とに渡した。
は、また痛み出した左胸の鼓動をアレンに気付かれないかとひやひやする。
「あ、ありがとう」
受け取ろうと手を差し出した、その時。
アレンの手との手がちょんと触れた。
「っ!!!」
とっさには手を引いた。
受け止める手がなくなった資料はかさりと床に落ちた。
「さん?」
アレンが不思議そうに自身より背が低いを覗き込む。
が、
やばい
これ以上は
心臓が
バクバクしてて
「っ!ごめん!資料ありがとう!じゃ!」
バッと資料を床からかすめ、はアレンに背を向けて走り出した。
「え、あの!さん!」
あぁ、どうしよう
名前を呼ばれても、心臓の速さが激しくなる
全力疾走した。
角をニ、三回曲がっただろうか。
曲がってすぐの壁に、はドンと背中を預けた。
疲れた
荒い息を整えながら、はずるずるとそこに落ちた。
あの少年。
新しく黒の教団に入ってきた、自分と同じぐらいの年頃の少年。
名前はアレン・ウォーカー。
この心臓のおかしさ、そしてこの顔の火照り。
何故だか彼がいるときに限って発生するのだ。
始めて会った時だって、
「アレンと呼んでください」
「あ、じゃあ私も、でいいよ。アレン君・・・・っ」
言ったとたん真っ赤になって心臓が鳴り出して逃げ出す羽目になってしまったのだ。
おかげではまだアレンとまともに会話したことがない。
先ほどだって、手が少し触れただけで症状が大きくでてしまった。
「どうしよう・・・」
もうどうしていいか分からない。
アレンと一度まともに話してみたいと思っているのに・・・。
アレンといると症状が激しくなるのは事実だが、それと共に、なんだか嬉しくなるのも確かだった。
「さん!」
アレンの顔がフラッシュバック。
は思わず顔を覆った。
クシャ
音にハッと手を見ると、握られた資料がもうくしゃくしゃになってしまっていた。
「あ〜」
悲痛な声を上げながら、は何とか資料を広げようと試みる。
何とか字は読める。
「えーと。何々?明日から任務。行き先はイタリアのミラノ。AKUMAの清掃か・・。」
イノセンスが関係してないだけ、気が楽だ。
そのまま視線を下段に滑らせる。
「同行者は、と・・・・ほぇぅっ!?」
が珍妙な声を上げたのも仕方ない。
そこには『Allen Warker』としっかりと書かれてあったのだった。
か、変えてもらおう!
一緒の任務の任務だと、ずっと一緒にいることになる。
そんな長い間自分の心臓が保つはずがない。
は執務室に向かって走り出した。
「さんに渡してきましたよー」
「ご苦労さん〜ついでにコーヒー入れてくんない〜?」
ポムポムと判子を押しつつコムイは情けない声でアレンに頼んだ。
「リーバー班長は?」
「化学式で手が離せないって〜」
「・・・・・分かりました」
なんだか一度この部屋に足を踏み入れてからずいぶんとこき使われている気がする。
「どうぞ」
「ありがとう!天使君」
「天使君・・・?」
いぶかしんで尋ねると、コムイは芝居がかった調子でばっと手を広げる。
「その容姿!可愛らしい微笑み!加えてその人をひきつける性格!立派な天使君だよ」
言い終えてぐいっと熱々のコーヒーを飲み干してにっこりと笑った。
「・・・全然違いますよ。第一、人なんかひきつけられてませんし・・」
アレンの妙な強調に、コムイは首をかしげた。
「どうして?みんな君の事気に入ってるのに」
「・・・・・さんは、僕を嫌いなんです」
「は?」
アレンは手を出すと、指を折りだした。
「一つ目に、僕のこと、アレンって呼んでくれないんです。それに僕と話している時僕の顔見てくれないし、その上なんかいつも途中でピューって逃げちゃうし・・・・ホラ、三つ!」
びっとコムイに三本指を突き出す。
コムイは苦笑いを浮かべた。
「うーん。君は恥ずかしがりやだからねぇ」
「でもラビとは楽しそうに話してましたよ?」
ある日、廊下で声が聞こえた。
聞きなれているはずなのに、なんだか違う感覚がして、不思議に思って角から覗くと、だった。
ラビの言葉に楽しそうに笑っている。
それがなんだか悔しくて、アレンは部屋に戻り、そして後で後悔したのだ。
あの時、会話に加わっていたら・・・・
「ラビ君は君のお兄さん的存在だからね。あ、もちろん僕もだよ?」
「・・・僕、お兄さんにはなれませんよ・・」
年が一緒ぐらいだから、お兄さん的・・と言うわけにはいかない。
「そうだよね。アレン君は君が好きだもんねぇ」
「なっ!」
アレンはコムイの口を手で塞ぐとあわてて周りを見回した。
みんな目が回るほどの書類に埋もれ、一心に手を動かしている。
気がついているものはいない。
「やめてくださいよ・・コムイさん」
「あはは、ごめんごめん♪」
手を離すとアレンはため息をついて向かいのソファーに倒れこんだ。
「でもさ、ほんとの事でしょ?」
「違いますよ。僕はたださんとお話がしたいだけで・・」
「でも神田君とお話はしたくないでしょ?」
頭に整った顔立ちの青年が浮かぶ。眉をぎゅっとひそめ、怒鳴る
「もやし!!」
「いやです」
自分でもびっくりするほどきっぱり言っていた。
「そうでしょうそうでしょう♪じゃ、君を思い浮かべて見て。君が『アレン』って呼んで抱きついてくる姿を」
さんが
「アレン!」(ニコ!)
あ、可愛い
「大好き」(何故だか飛び出したオプション)
ガバリ
「うわわわわわわわわわわ!!!!!!!!!」
アレンはあわてて虚空を手で払った。
「ほーらね?」
「・・・・・・・・」
見やるとコムイは人のよさそうな笑みを浮かべている。
(この変態室長・・・)
内心毒づきつつ、
(僕、が好きだったんだ・・・)
みょうにすんなり受け入れている自分がいた。
後少ししたら、はが執務室に着き、アレンと、二人して顔を真っ赤に染めることとなる。
まだ恋は始まったばかり。
[END]
にぶちんアレン君とにぶちんヒロインちゃんでした♪
けい
05,10,24
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