「あら、神田」
「・・・」
「任務?」
「あぁ」
「どのくらい?」
「早くて三日遅くて・・多分一週間」
「・・・そう」
「なんだ?」
「ううん。待ってるね」
「・・・あぁ」
8.だいすきよりももっとおおく、すき。
「よろしくお願いします」
今回のお供のファインダーが頭を下げた。
神田はそれを聞いているのかいないのか。
「いくぞ」
神田は人に言うのでなく、自分に言うかのようにそう小さく呟くと、舟に乗り込んだ。
ファインダーがあわててそれに続く。
「気をつけてね、神田君」
地下水路の薄暗いランプを片側に浴びてコムイがいつもの抜けた言葉をかけた。
「うるせぇ」
苛立ち気味にそうはき捨てた神田。
「ひどいよー!」
背を向け、しゃがみこんで泣きまねをするコムイ。
その肩を、傍らの少女がぽんと叩いた。
「ホラ室長、ここ掃除してないですから汚いですよ。コートが汚れます」
「うぇーん君!」
ふざけて抱きつこうとしたコムイ。
その一瞬、瞬きのうちに、首筋に光るものが添えられた。
「に触るな」
後ろから低く聞こえるどすの聞いた声。
コムイは振り返らず、両手を挙げてゆっくり立ち上がった。
「解った、解ったから。六幻引いて?」
「神田!」
の言葉に、神田はちっと舌打ちをすると、六幻を鞘に収めた。
首筋から刃が離れたと同時に、コムイが短いため息をつく。
そして神田にくるりと向き直ると、
「君の言うことしか聞かないなんて、愛だねーっ!」
また先ほどと同じ調子で言う。
「・・・細切れにされたいか?」
カチャリと六幻に手をかける神田。
コムイはあわてての後ろに隠れた。
はその姿に苦笑して、神田に目を向けた。
切れ長の目と、まっすぐでさらさらのぬばたまの髪。
それを高い位置でぎゅっと縛り、長いコートに身を包んでいる。
腰には彼のイノセンス、六幻。
「なんだよ」
じっと見つめるに、神田はいぶかしんで言う。
は首を振る。
「なんでもない。気をつけてね、待ってるから」
「・・・あぁ」
それを聞いてにっこり微笑む。
その時突然、神田はの首の後ろに手を回してぐいと引き寄せた。
唇に触れるだけのキスをすると、をトン、と軽く押す。
「だせ」
その光景にあっけに取られていた様子のファインダーはあわてて櫂を取った。
流れに乗ってだんだんと速く進みだす舟。
「待ってるから」
神田の小さくなっていく背に呟く。
愛してるから好きだから大好きだから
舟の小さなカンテラが暗闇に溶けていく。
それを見届け、はうつむいた。
その肩にぽんと手が置かれる。
「入ろうか」
長身のコムイを見上げると、にっこりといつもの笑みを浮かべていた。
は頷くと、歩き出したコムイにしたがって歩みかけ、止まった。
振り返り、神田が消えていった方を見る。
好きだから、大好きだから愛してるから
先ほど神田が唇で触れた、自身の唇にそっと手を当てる。
何度経験してもなれない『見送り』。
は祈るように見つめて、そして振り切るように目をそむけた。
ゆっくりとした足取りで階段に足をかける。
大好きだから
そして自身も階段の奥へと消えていった。
[END]
好きだからこそ止められなくて、好きだからこそ死のはざまに行く彼が心配でたまらない。
けい
05,12,09
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